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ヘアサイクル「退行期・休止期」の偏り
女性の薄毛の原因は、男性のAGAほど研究が進んでおらず、まだまだ解明されていない要素が多いです。また、解明されていることも部分的なものに過ぎず、男性のAGAのように画一的に捉えにくい側面があります。
明確に言い切れることとしては、生えている髪の毛が細くなったり絶対的に減ってきたように感じるのは、ヘアサイクル上の「退行期」や「休止期」に該当する毛髪の割合が増えてしまっているということです。
想像していただければわかりますが、絶対数としての髪の本数が変わらなくても、すくすく育つ「成長期」の毛髪が「退行期」に本来以上に多く移行してしまったり、抜け始めて冬眠状態に至る「休止期」の割合がなぜか増加してしまえば、頭皮上の髪の毛の絶対数は減っていってしまいます。これによって、自分の頭髪の薄毛化にある時ハッと気づかされるのです。
正常なヘアサイクルからの変化
髪の「成長期」は本来ですと2年から6年程度あり、相対比としては全体の8割強を占めると考えられています。その他の2割程度の毛髪は「退行期」や「休止期」といったステージに該当し、これらは合わせて4ヶ月程度の短期間で脱毛に至ります。
日々終焉に向かう髪の毛が順々に脱毛していっても、残りの大部分はまだまだ力強く育つフェーズにあるので、全体量としては見た目の上で変わらない状態が維持できます。これがヘアサイクルの本来の姿です。ちなみに、このような「成長期」→「退行期」→「休止期」…のような一連の流れは、ヘアサイクルという表現以外にも「毛周期(もうしゅうき)」と説明されることもあります。
ところが、このような「成長期」「退行期」「休止期」の均衡が崩れてしまい、早々と「退行期」や「休止期」へと移行し始める毛髪が出てきます。これが頭皮上で起きている薄毛化の波で、こうなるとハリやコシのある太い毛の割合が徐々に減っていき、ボリューム低下や悪い意味での透け感が生じ始めます。
相対的に「休止期」へと偏りが生じてしまうことから、このような脱毛傾向を「休止期脱毛症」と言うことがあり、女性の薄毛に対する説明としてしばしば医療機関で用いられます。
たとえば、産後に一時的に抜け毛が増える症状はこのような偏りの急激な変化であるため、「急性休止期脱毛症」と呼ばれます(「分娩後脱毛症」と言ったり、「産後脱毛症」と案内されるケースもあります)。
ステージの偏りは実態評価に過ぎない…
ただし、もうお感じのように、髪が減る現象を「ステージの偏り」で説明しても、「じゃあどうしてステージが偏るのか?」という本質的な原因は説明されていません。女性の「産後脱毛」に限定して言えば、「女性ホルモンの分泌量の増減」を持ち出せば十分な説明になりますが、女性の薄毛原因は必ずしもこれだけで説明がつくものではありません。
女性ホルモンとの相対比からくる「男性ホルモン濃度の上昇」といった事情や、それ以外にも一般的な「生活習慣由来の影響」も考えられます。これらが複合的に絡み合うのが女性の薄毛症状の難しいところで、男性の薄毛メカニズム(AGAメカニズム)のように明瞭な公式に落とし込むことは困難です。
ですが、このようにまとめてしまうと何だか「モヤモヤ感」が残るだけになりますので、もう少し個々の事情にフォーカスして、具体的に「女性ホルモン由来の影響」、「男性ホルモン由来の影響」、「生活習慣由来の影響」と分けてご紹介していきたいと思います。
この3点の切り口で「女性の薄毛原因」を整理しておけば、全体像を見誤ることはないですし、どこの医療機関(クリニック)で説明を受けても納得しやすくなるはずです。
①女性ホルモンの乱れ・バランスの影響
個々に事情が違ったり、複雑に種々の要因が交差するものの、女性の薄毛の中核的な原因はやはり「女性ホルモン」にあります。まず、大前提として女性ホルモンの「エストロゲン(卵胞ホルモン)」には毛髪にハリやコシを与えるポジティブな作用があります。
これは女性の薄毛を理解するためにとてつもなく重要な基礎知識になりますので、必ず押さえておきましょう。エストロゲンはしばしば「美人ホルモン」とも言われますが、実はお肌だけではなく毛髪を健やかに保つためにもなくてはならないものになっています。
女性ホルモンには「エストロゲン」だけではなく、「プロゲステロン」も存在しますが、こちらは「女性の美」にフォーカスして捉えた場合ややネガティブな案内となります。もちろん、子宮内膜を柔らかくして妊娠しやすくするといった重要な役割がありますが、プロゲステロンの分泌量が相対的に多くなる時期は肌荒れが増えたり、イライラしやすいといったストレスを感じやすくなります。
女性ホルモンの分泌量は流動的に変化し続ける
イラストにあるような「月経周期の女性ホルモン曲線」は、日々意識しなくても脳の「視床下部」や「脳下垂体」との連携プレイでうまくコントロールされています。「視床下部」→「脳下垂体」→「子宮(卵巣)」という形で分泌を促す刺激ホルモンが順々にバトンパスしていき、子宮の卵巣で原子卵胞が成熟し始めると「エストロゲン」が分泌増加を開始、そして卵胞が卵子となって排卵が起こると「プロゲステロン」が後を追うように分泌量を増やし始めるという仕組みです。
ただ、たとえば「睡眠習慣の乱れ」や「過度なストレス持続」などがあると、自律神経の中核を担う「視床下部」がうまく機能しにくくなり、これに連動する形で女性ホルモン量の調整機能にも乱れがもたらされることがあります。元々月経が安定しにくい傾向の方もおられますが、それとは別に日々の生活環境に潜む種々の要因で「乱れ」がもたらされるケースがあるのは、おそらく女性なら誰もが実感できる内容だと思います。
そして、「エストロゲン=毛髪の健やかさに貢献」という作用を振り返ると、このような「ホルモンバランスの乱れ」に繋がる一つひとつの要因が女性の薄毛を引き起こしてしまう可能性に繋がっているということになります。
特に妊娠の際は、出産までの期間に凄まじいレベルで女性ホルモンの分泌量が増加し、一時的に毛深くなるといった影響が出たりもします(エストロゲンは発毛力に寄与することが関係します)。そして出産後に「成長期」に偏ったものが「退行期」や「休止期」に大きく移行するような形で元の状態に戻ろうとし始めます。これが産後脱毛と言われるものですが、このような急激な変化でなくても、「女性ホルモンの増減」によって毛髪の育ち方は影響を受けているというわけです。
②男性ホルモンの相対的台頭の影響
あまりご存じない方もおられるかもしれませんが、女性にも「男性ホルモン」は存在します。ですが、女性が有する男性ホルモンの量は男性に対して1/10~1/20程度(男性比5%~10%程度)と言われているため、女性の場合は何もしなくても「女性ホルモン優位な状況」が続きます。よって、基本的には男性ホルモンの影響が出にくい体質になっています。
ところが、元々少ない「男性ホルモン」であっても、女性ホルモンの分泌量が減ってくると、女性ホルモン優位であったパワーバランスにも変化がもたらされます。男性ほどではないにしても、以前よりも「男性ホルモン」に対する感受性が高くなってしまうケースがあり(アンドロゲンレセプターの感度UP)、結果としてあまり吸収したくない発毛の弱体化に繋がる要因を取り込んでしまうことがあると考えられています。
女性が男性ホルモンの影響で薄毛に至るメカニズムは未解明
女性の場合にも、女性ホルモンの分泌量が低くなり、相対的に男性ホルモンが台頭するとこれによって薄毛化のスイッチが押されるケースがあります。ただ、女性の場合でも善玉男性ホルモン「テストステロン」が悪玉男性ホルモン「DHT(ジヒドロテストステロン)」に変化するプロセスがあるのか?といった内容や、仮にそれがあるなら「5α還元酵素(リダクターゼ)」のⅠ型とⅡ型のどちらが作用しているのか?といった辺りはまだはっきりと解明されておらず、実態はベールに包まれているのが実情です(この部分だけを捉えて評価検証するのが難しい側面があるのかもしれません)。
このため、男性の薄毛メカニズムのようにわかりやすい公式(以下のようなもの)で、女性向けのものはどこにも掲載されていません。
男性の場合、「5αリダクターゼ」と呼ばれる還元酵素はⅠ型もⅡ型も存在しており、M字箇所やO字箇所にⅡ型リダクターゼが多く存在していることがわかっています(逆に後頭部にはⅠ型の5α還元酵素が存在し、この部分は薄くなりにくい事情に貢献しています)。

イラスト出典:SBC湘南メディカル記念病院
このため前述のような公式が出てくるわけですが、「女性の場合にどうなっているのか?」についてはまだ未解明ではっきりと明言されている医療機関サイトや研究論文などは見当たりません。
それでも、相対的に「女性ホルモン」が減ると、元々少なかった「男性ホルモン」であってもその存在感を増してくると考えられます。特に「閉経による女性ホルモン量の激減」は「男性ホルモンの台頭」をもたらしやすく、結果として男性に似たようなメカニズムで薄毛化に影響を与えるケースがあります。
男性ほどは薄毛化因子の影響を被らない♪
大幅に女性ホルモンが減少する40代に差し掛かるタイミングあたりで、あるいは50代中頃で閉経を迎えると、やはり「男性ホルモンの影響」も一定程度取り込まれ得る可能性が出てきます。この際にアンドロゲンレセプターの感度(←本質的には遺伝的傾向)によって、その影響度が左右します。
ただし、実態として男性のように頭皮が露わになるような「ハゲ散らかし?」までは起こりにくいです。これは元々の男性ホルモンの比率が5%~10%程度と相対的に少ないことに関係があると判断されています。
また、男性ホルモンが台頭してくるということは、前項のエストロゲンの減少そのものから来る「髪のハリやコシの低下」も同時に影響することになるため、その瞬間「男性ホルモンの台頭」のみが単体で作用していると考えるのは不自然です。むしろ、「エストロゲン不足」との相乗効果で女性特有の薄毛化症状が形成されていると判断するのが自然です。
このようなことから、頭頂部から広範囲に(且つ、まだらに)起こる薄毛化は、男性とは別で「女性固有の薄毛の特徴」として部分的に分けて対処していくのが一般的な治療スタイルになっています。
③様々な「生活習慣」による影響
生活習慣と言っても様々な切り口があります。少し分けて整理した方がわかりやすいので、行き過ぎない程度に個々にクローズアップして捉えてみたいと思います。自分に関係のありそうなものを中心にご確認ください。
分類の仕方として、「女性ホルモンの乱れに繋がるもの」と、「女性ホルモンに直結しないが髪には影響を与えるもの」とに分けて考えることもできます。ここではあまり細分化し過ぎず、大きな「生活習慣」の枠組みの中でご紹介します。
ダイエットや食生活
偏った食事や過度なダイエットなどにより、髪に必要な栄養素が不足すると、髪は細くなり切れ毛や抜け毛の量も増えてしまいます。女性が美を意識するとき、体型を考えることは誰しも同じだと思いますが、過度なダイエットによって髪のハリが失われたり抜け毛が増えてしまうと意味がありませんよね。
髪にとってなくてはならない成分は「髪の三大栄養素」と言われるもので、「タンパク質」「ビタミン」「亜鉛」の3種です(五大栄養素とは少し異なりますが、全体イメージはイラストをご参照ください)。
特に生牡蠣や牛モモ肉、豚レバー、うなぎ、ナッツ、切り干し大根、ワカメや海藻類などに豊富に含まれる「亜鉛」は、タンパク質の一種である「アミノ酸」を再合成し、髪の成分である「ケラチン」を作るのに強く貢献してくれます。もちろん、原料となる「タンパク質」自体を摂ることも大切なので、1日2食や1食にしてしまうような偏ったダイエットは良くありませんが、普通に生活する分には「タンパク質」はある程度充足されやすい側面があります。
これに対し、「亜鉛」は私たちの食生活の中で比較的欠乏しやすく、意識して摂取していないと不足しがちになることが指摘されています。亜鉛の1日の平均摂取推奨量は、厚生労働省の提供情報によると成人女性で8mgです(成人男性は11mg)。皮膚を守ったり、アレルギーを抑制するだけでなく、脱毛を抑えることにも貢献しますので、特に「亜鉛」を意識しつつバランスの良い食事を心がけることが大切です。
運動習慣の有無
まったく運動をしていない、あまり体を動かさない…といった生活が慢性化すると、身体全体の血流が悪くなり、新陳代謝も鈍ります。頭皮においては「毛細血管への血流量」も低下するため、髪に栄養が届きにくくなります(髪1本1本は、それぞれの毛根が頭皮内の毛細血管から栄養を受け取ることで成長します)。
中高年の男性がよく使用している発毛剤の中には、「ミノキシジル」と呼ばれる血管拡張成分が含まれていて、これを取り込むことで血流を上げて発毛力を取り戻す作用が期待されます。女性の薄毛に対しても、この種の外用薬を処方することがあります(特に加齢等で血流低下も想定されるケース)。
血流の良さは、栄養供給ルートの確保に繋がるため、軽い運動習慣くらいは日常生活の中に取り入れておきたいものです。
睡眠習慣のあり方
不規則な睡眠や慢性的な睡眠不足は、自律神経の調整機能に悪影響を与えます。自律神経をコントロールする脳の「視床下部」は、女性ホルモンの分泌量の調整なども担うため、睡眠が安定していないとホルモンバランスが乱れやすくなります。
また、「成長ホルモン」は基本的に睡眠中に分泌されるものであり、睡眠量が不足したり熟睡できていないと、肌荒れ(お肌の修復力の低下)なども生じやすくなります。「しなやかな髪」だけでなく、キレイを維持するベースとなるものが睡眠なので、しっかりと質の良い睡眠を確保することが大切です。
洗髪の回数やシャンプー剤の良し悪し
髪にとって洗髪のあり方はとても大切です。ご存じだとは思いますが、「1日複数回のシャンプー」は髪の保湿力を奪い去ってしまい良くありません。また、モノによっては洗浄力が強すぎるため、頭皮環境に都度マイナス要因を提供し続けてしまうケースもあります。髪が健やかに育ちにくくなり、パサつきや切れ毛の原因にもなり兼ねません。
シャンプー成分として「高級アルコール」と付くもの(ex.高級アルコール硫酸塩など)は価格帯として非常に安価です。また泡立ちも良いため、非常に綺麗に頭皮を洗い上げてくれている錯覚をもたらします。事実、汚れや油分を落とすという意味では強力に作用していますが、毎日ベタベタに頭皮に整髪料が付着するようなヘアスタイルでもしていない限り、頭皮は優しく軽く泡立てる程度で十分清潔になります。
むしろ「界面活性剤」の力が強すぎると、残しておくべき必要な油分まで落としてしまいがちで、頭皮や毛髪の保湿力の低下を招き「しなやかさ」を維持しにくくなります(あるいはこれが頭皮トラブルをもたらすこともあります)。
あまり過度に高価なシャンプーを購入する必要はありませんが、できれば「天然由来のもの」や、「アミノ酸系のもの」など、少しシャンプー成分にも気を使いつつ、「丁寧な洗浄と洗い流し」を意識してみてください。
過多なヘアアレンジやヘアメイクなどの影響
パーマやカラーリングなどが多いとそれだけ髪にダメージが残ります。また同じ分け目、同じ場所で結ぶといった髪型をキープしていると、それに伴った薄毛なども生じやすくなります。同じ髪型くらいであれば大した影響は生じませんが、アップにして結ぶヘアスタイルを長時間、長期間やっていると、当然髪が抜けやすくなります。
かつてAKBの高橋みなみさんが、常にハーフアップの髪型を維持し続けていたことで「危うくハゲかけた…」と発言していたのは有名な話ですね。アイドルでもない限り、毎日アップのような事はないと思いますが、ヘアアレンジにこだわりを持ちすぎると本末転倒…ということにもなり兼ねません。
どちらかと言うと、「美しくしなやかな髪を維持すること」に気を使った方が長い期間女性らしくいられるはずです。
ストレスや不安などの精神状態
日常的に「ストレス」や「悩み事」が多いと自律神経の働きも不安定になりがちです。自律神経は内臓や血管などの動きを自分の意識外で自動コントロールさせるものですが、ストレス過多になるとこの調整機能がスムーズにいかず、非常に疲れやすいといった影響も出てきます。
また、睡眠習慣の箇所でも触れたように、「自律神経の働き」は「ホルモンバランスの調整機能」にも強く影響するため、女性ホルモンの分泌指令を狂わせてしまうといった懸念もあります。これは連鎖的に薄毛化へと繋がる要因にもなり得るので、ストレスとの付き合い方はやはり考えておかなければなりません。
ストレスをなくす生活は現代社会では難しいですが、「ストレスを溜め込まずに発散する」という選択は、取り組み次第で可能です。心を穏やかにしてリセットできるような趣味や習慣を、何か一つでも確保しておきたいものです。
まとめ
当コラムでは、女性の薄毛を引き起こす要因を「女性ホルモンの影響」「男性ホルモンの影響」「生活習慣の影響」に分けてご紹介し、その相互の繋がりをイメージしやすいように案内させていただきました。
「女性の薄毛メカニズム」を正しく捉えるには、やはり「女性ホルモンの変化」を意識することが大切です。この影響下で、間接的に男性ホルモンが台頭するようなこともありますが、自律神経が整うような睡眠習慣を意識したり、髪に良い栄養バランスを献立に取り入れるなど、普段から取り組める対策はいくつも考えられます。
また、専門的には女性の薄毛に良いとされる治療薬「パントガール」を服用したり、利尿作用を高める「スピロノラクトン」といった治療薬で男性ホルモンを抑制していく方法(相対的に女性ホルモン割合を高める方法)も考えられます。あるいは、「ミノキシジル外用薬」であれば、体内循環器への副作用も少なく、比較的安全に頭皮の血流量を増やしていくこともできます。
このあたりの具体的な対策や医学的治療については、後日別途コラムを用意して案内させていただきます。しばらくお待ちください(ブックマークしておいていただけますと幸いです)。
また、当サイトでは「女性の薄毛患者さま」に対し、初回からオンライン診療が可能な「クリニックフォア(女性)」をおススメしています。治療薬も比較的低く抑えられていますので、専門的な診察をお求めの際はぜひご参照ください。最後までご覧いただきありがとうございました。

画像出典:クリニックフォア公式